機動戦士ガンダムが生んだアダルト向け(エロ)アニメ

 機動戦士ガンダムの影響力は大きい。一般の人間にとっては、ロボットアニメはみんな同じように見えるらしいが、その一方で様々なジャンルに陰となり陽となって影響を与えている。
 日本のアダルト向けアニメは、もはや海外でも認知されるに至っている。その誕生は機動戦士ガンダムの劇場版パートV公開に近い、1982年前後である。
 だが、このアダルト向けアニメの誕生に機動戦士ガンダムが深く関わっていることを知っているだろうか。アダルト向けアニメ、美少女アニメの創始、『くりぃむレモン』の誕生は、ガンダム無くしてはならなかったのだ。ここでアダルト向けアニメについて語ってみることにする。
 日本のアダルト向けアニメの誕生はかなり早い。TV作品としては『鉄腕アトム』と同じ1963年には、既に小島功原作による『仙人部落』が放映された。また劇場作品では故・手塚治虫による『クレオパトラ』『千夜一夜物語』といった一連の作品がある。だが、内容的には欧米女性に対するコンプレックスのような、グラマラスな女性による官能的映像が主だった。
 当時、日本の漫画、アニメ文化は欧米に比べても、非常に劣っている、幼稚なものだと認識されていた。その為、大人がそれらを観ることにある種の後ろめたさを感じていた。今でこそ、サラリーマンが通勤電車内で堂々と週間漫画雑誌を読むようになって久しいが、それはガンダムを始め、ヤマト、そしてエヴァンゲリオン等が、いわゆる子ども向けから脱却した“若者向け”作品として広く認知され、漫画文化もまた、青年向け、あるいは大人向けの作品が登場し、一般的に読まれるようになったお蔭である。
 TV向けのアニメは、様々な状況に縛られていた。スポンサーの意向、時間、経費。そういった足枷の中で製作されるアニメとは違った可能性を示したのが、ビデオブームによって誕生したOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)である。OVAオリジナル・アニメの第1弾は押井守の『ダロス』であるが、その可能性は多くの制作者を惹き付け、次々とOVA作品の製作に乗り出した。
 1982年、新ジャンルのアニメ企画に参加していたあるスタッフ達が『機動戦士ガンダムV めぐりあい宇宙篇』を劇場で観賞した。その時、彼らに興味を抱かせる出来事があった。それは、セイラ・マスの入浴シーンでのこと、劇場のあちこちでカメラのシャッター音が聞かれ、一部ではフラッシュまでたかれたのである。些細なことではあったが、その時、彼らはアニメ・ファンが求めているものの断片を感じ取った。
 これが『くりぃむレモン』誕生のきっかけとなったのである。
 既に子供の頃アニメに親しんだ者たちは、もう成人に達し、アニメ・キャラクターに対する認識を身近なものとしていた。そういう下地が出来上がっていたことに注目したスタッフは、アニメによるアダルト作品を考えたのである。そこに登場するキャラクターは欧米女性を意識したデザインである必要はなく、身近で、同世代として好感を持てるアニメ・キャラクターでよく、描かれるSEXもまた、日常に近い形が望まれた。その対象となるのは同世代の若者達だからである。
 アダルト向けアニメは既に別のところで進行中だったので、日本初のアダルトアニメビデオ第1弾の座は逃したものの、『くりぃむレモン』の誕生は絶大な支持を持って迎えられた。それは同世代感覚のキャラクター、アニメならではのストーリー、そして優秀なスタッフ達による演出と作画等、通常のアニメを圧倒する出来の良さ、そして今でこそ犯罪性の強い内容が多いが、当時、強姦等の犯罪的SEXを排除した作りにあった。
 『くりぃむレモン』はこうやって息の長いシリーズをスタートさせたわけだが、実は順風満帆というわけではなく、誕生当初から多くの問題があった。
 第1弾となるはずだった作品は、当時のビデオ倫理審査の規定を通過出来なかった。当初、くりぃむレモンは『媚・妹・Baby』と『エスカレーション〜今夜はハードコア』の15分2作品によって構成されていたが、その内容は、後に発売となったパート1、パート2のアダルト・シーンだけによる作品だった(その後、これはパート0として、通信販売されている)。規定から外された理由は、アダルト・シーンが全体を占めるパーセンテージと、ヒロインである亜美の年齢(当初は11歳だった。当時、実写アダルトと違い、アニメには年齢の規制が無かった。また人間でなければモザイク等の処理についても規制が緩く、相手が怪物である(人間でない)という理由でパート3ではモザイク処理はかけられていない。規制は徐々に強くなり、様々な性犯罪の多発から、特に某少女誘拐殺害事件の直後あたりから、(実写で)セーラー服凌辱は禁止になったり、明らかに設定的に小学生というものは駄目になった。しかし、その逆をついて、ブレザーにすることで、より親近感を持たせるようにしたり、設定もランドセルを背負った年齢不詳の少女という作り方をしている。最近の実写では、幼く見える女性(実際には20代が多い)を使った疑似ロリータ物も多く作られている。しかし、幼い性を巻き込んだ犯罪が急激に増えている今現在、規制はより強くなっていくだろうと予想される)であった。その為、急遽ドラマ部分が追加され、1巻25分が1作品という既成の形となったのである。つまりビデ倫が後の『くりぃむレモン』の形式を決定づけたのである。
 1984年8月10日、『くりぃむレモンPART1 媚・妹・Baby』『くりぃむレモンPART2 エスカレーション〜今夜はハードコア』が発売され、大反響をもたらした。続巻の製作が決定されたが、今度はその内容をどうするかが問題となった。血の繋がらない兄と妹の禁断の愛を描いたパート1、カトリック系女学園の寮で展開される少女達によるレズを描いたパート2、テーマとしては奇をてらったものではなく、それこそ視聴者サイドの想像の範囲内でありながら、充分に要求を満たす作品となっていた。その第2弾の作品はどういったものが良いのであろうか。試行錯誤の末、傾向の全く異なった2作品が同時進行された。それが、ヒロイック・ファンタジーであるパート3『SF・超次元伝説ラル』とSF西部劇であるパート4『POP・CHASER』である。そしてこの4作品こそが、後の『くりぃむレモン』シリーズの方向性を決定付けた。ちなみに『POP・CHASER』は『くりぃむレモン』の中であっても、特に異質な存在であるが、それが後に傑作OVAシリーズ『プロジェクトA子』を生んだ(更にプロジェクトA子は、くりぃむレモンパート1の亜美シリーズ完結編『旅立ち−亜美・終章−』と同時上映で劇場公開された)。
 こうして『くりぃむレモン』は一時代を築き、他の作品の追随を許さないアダルト・アニメであり続け、そして美少女アニメの始祖として確固たる地位を気付いた。日本アニメ史を語るうえで、欠かす事の出来ない貴重な作品群であることは間違いない。
 この『くりぃむレモン』シリーズが第1期とするなら、パソコン・アダルト・ゲームのアニメ化作品が登場し始めたのが第2期と言えるだろう。斬新なゲーム性と多彩な美少女によって人気を博した『同級生』等のアニメ化作品が、15歳未満禁止と若干ソフトであるが発売され、ゲームと同様の高い作画技術が人気を博した。
 その後、ピンク・パイナップルによる作品群によって、もはや安定した作画や高いストーリー性は当たり前の時代となった。これが第3期。そして現在、パソコンの性能の飛躍的向上によって、ゲームでもフルアニメ、フルボイスが当たり前となり、それと共によりゲームと関連性の高いアニメ作品や、通常のTVシリーズを遥かに越えた高品質のアダルトアニメ作品が登場するに第4期に至っている。TVの深夜枠を使ったアニメ作品の登場によって、本来はOVAに頼っていた、足枷のない作品作りがTVでも可能となり、OVA作品は激減した。現在、OVAのかなりの割合をアダルト・アニメが占めている。
 ここからは余談だが、当初、アダルト・アニメの声は、偽名を使って通常のアニメに出ていた声優が当てていた。現在は、アダルト専門の声優も多くいるが、当時多かったのは、結婚→引退→復帰の過程でアダルトに出るという形であった。
 偽名を使っていることもあって、確実ではないが、聞いたことのある声が昔の作品で見つけることが出来る。そしてガンダム作品に登場するキャラクターの声優も何人かはアダルト・アニメの声を当てている。この『くりぃむレモン』でも、SEEDのマリュー・ラミアス役の(セーラームーンの、と言ったほうがいいか)三石琴乃、ハマーン・カーンの榊原良子、エルピー・プルの本多智恵子(これは本間ゆかりという声が全く一緒の声優もいるので確実とは言えないが)、最も有名なのが、パート1で兄を演じた(カミーユ・ビダン)飛田展男(ちなみに主人公の亜美を演じたのは、牧場の少女カトリのカトリ役、乃川ひとみで、『くりぃむレモンの中で数多くの役をこなしている)。他のアダルト・アニメでは、エマ・シーン、リィナ・アーシタの岡本麻弥、アイナ・サハリンの井上喜久子、ブライトの鈴置洋孝等がいる。探して見れば、ガンダムXの堀内賢雄、バイファムの菊池英博、クレヨンしんちゃんの矢島晶子、こおろぎさとみ、今やすっかり有名になった山寺宏一と、かないみか夫婦の声も見つけることが出来る。声優ファンは色々と見てみるといいだろう。

参考文献:くりぃむレモン完全保存版LD全集ライナーノーツ
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