脚本 兵頭一歩、両澤千晶、演出 高田昌宏、絵コンテ 下田正美
ストーリー
オーブ領のオノゴロ島に入ったミネルバ。そこでミネルバは改修を受ける。一方、ようやく自分の国に戻ってきたカガリは休む間もなく開かれた閣議に参加する。そこで聞かされたのは、大西洋連邦への加盟であった。それはプラントへの敵対勢力への参加でもあった。
ミネルバの改修作業の最中、クルー達はオーブに上陸し、束の間の穏やかな時間が流れる。
キラと会ったアスランはカガリに、プラントに向かうことを伝える。しかし、アスランを見送ったカガリに告げられたのは、大西洋連邦がプラントに対し敵勢国家と見なし武力排除も辞さないという声明を出したことであった。
一方、かつて家族を失った地へと足を向けたシンは、その慰霊碑の前でキラ、ラクスと出会った。
アバンタイトル
オーブ領・オノゴロ島に入港するミネルバ。ブリッジのタリア達にアスラン、カガリ。そしてミネルバ入港を出迎えるオーブのウナト・エマ・セイラン、ユウナ・ロマ・セイラン等の重鎮達。「今は」と気になる発言である。でも、前作でオーブの主立った幹部達は皆死んだはず。生き残った彼らは? 二軍の繰り上がり組だとすると政治は大変だ。ウナトはどうやら市長らしいが。
Aパート
ミネルバを下りて来るカガリ、アスランにタリアを始めとするクルー達。カガリに抱きついたユウナはどうやらカガリの婚約者という設定らしい。前作で全く出て来なかったキャラクターだから今回新たに設定されたのだろうが、ちょっとやり過ぎのような気がする。アスラン、カガリのバカップルは前作で決まった筈だから(所謂アスカガというやつだ)、敢えてそれを壊すようなキャラを出した目的は何だろうか。少なくとも流れに流されてカガリとユウナが(強制的であれ、任意的であれ)出来てしまうようなことは考えにくいんだが。オープニングからすると、アスランを巡る女の戦いの様相を呈しているが、これではカガリに逃げ道が出来てしまうぞ。昼ドラマのような(肉体関係を伴った)ドロドロ恋愛をしたいというならまだしも、ちょっとやり過ぎたような感がある。もちろん使い方如何によっては恋愛ドラマは効果的に動くだろうから、まだまだ様子待ちなんだが。
でもやはりアスランは平静ではいられないよなあ。
それにしてもオーブのあの格好、ちょっとダサ過ぎる。カガリ、国家元首ならもっとファッションセンスを磨いて良い服を着ることを推奨したほうがいい。もっともこのダサさがオーブ=日本という裏を表しているとすると妙に納得してしまうんだが。
ウナト・エマからの報告を受けるカガリ。二人の関係を見ると、カガリが持ち上げられているだけのような雰囲気すら受ける。恐らくそういうものなんだろう。カガリは元首だとしても国を直接動かしているわけではない。報告の義務はあっても実際にはウナト達重鎮が国を動かしている。ウナトからはその自負が伺えるが、逆にカガリは上辺だけに置かれているような軽々しさがある。
ユウナのアスランに対するライバル心は結構あるのだろう。まあ、こんなことを見せつけて優越感に浸っているのならば、人間としての資質が浮き彫りになったようなものだが。しかし、耐えるアスランも大人っぽいものの、逆にこの2年間で何があったのか不思議になってくる。
挨拶をするタリア、アーサー。彼らの敬礼は手がほとんど垂直。
別のカットではマリュー・ラミアス、アンドリュー・バルトフェルドの姿もある。予想通りだと言えばそうだが、もう少し劇的に出てくると思ってたので少々あっさりしていた感じがした。もっとも当たり前と言えば当たり前なんだが。
行政府に帰るカガリを肩を抱いて送るユウナ。いちいちアスランに見せつけているのが子供っぽい。それに従うだけのアスランを不思議そうに観るタリアとアーサー。事情は判るが流されるだけのカガリはまたしても失態か?
内閣府官邸で、太西洋連邦と条約締結の案を受けるカガリ。何だかカガリと重鎮達の会話内容が微妙に噛み合っていない。地球の惨状を見せられ驚くカガリ。でもそんなのミネルバで見たはずじゃないのか? ユニウス・セブンを落下させたジン部隊の映像も見せつけられる。このシーンに入るカットはガーティ・ルーと3機のガンダム。やはりファントム・ペインとはガーティ・ルーの部隊なのだろう。ということはネオ達はロード・ジブリールのブルー・コスモスで決まりか。
このカガリには重鎮達の説得等まるで出来ず。ユウナに適当に丸め込まれて言い返せないのは情けない。もっともここではユウナ達のほうに正論がありそうだ。
人々の被害の声がどんどんマス・ヒステリー的にコーディネーターへの憎しみに変わっていく。ここでの描き混みは結構凄い。妙なところに凝っていて、女性のシャツの奥からブラジャーが覗いていたりと、変に拘っている。怒りが収まらぬ市民の映像はかなりリアリティがあるが、いきなりマシンガンを乱射しているのはどうだろうか。マシンガンが一般的にあるのならともかく、あのシーンだけ見るとブルー・コスモスあたりがサクラを紛れ込ませて先導しているようにも見える。いや、きっとしているだろう。例のキャッチフレーズが繰り返されていることからもそれが伺える。
説得に屈したようなカガリ。
一方、軍本部でシャワーを浴びるアスラン。明らかにファンへのサービス・カットだ。
車に乗って出掛けるアスラン。その車、ちょっとデカい。
ミネルバの修理。タリア、アーサー、そしてタリアから指示を受けるマッド・エイブス。ジープに乗ってやってきたのはマリュー・ラミアス。隣にはマードック曹長(偽名は判らない)もいる。ここではモルゲンレーテ造船課、マリア・ベルネスという偽名を使っている。軍事機密よりも補給が大事、というのは前作でアーク・エンジェルを指揮し、かつてのユニウス・セブンで水や弾薬を補給していたマリューの経験に基づく言葉か。アーサーの表情とタリアの動き等、細かい演技に注目。
新旧艦長の夢の対面。マリューは素性を偽ってはいるが、互いの手を握るのは面白いシーンだ。二人の会話の中に入るカガリのカットは、前作での白の衣装か? せめて元首ならそういった服を着てもらいたいところだ。
この二人の会話は微笑ましいのだが、ちょっと艦長としてのセリフとしては軽々しいような感じがする。部下のいるところではそんなことは言って欲しくない。
Bパート
廊下を歩くレイ。そこの休憩室(?)でメイリン、ヨウランやヴィーノ達が上陸許可が出るのではないか、とはしゃぎ気味に話している。それを横目にレイは歩いていく。部屋の中にはシンがマユのケータイを眺めている。恐らくシンは頻繁にケータイを眺めてのだろうから、ややシスコンの気があるのかも知れないが、全体的にシンそのものが描かれることが少ないせいで、余り意味を伴っていないのが少し残念だ。レイとシンはどうやら同室の模様。服を脱いでシャワーを浴び始めるレイに、再びベッドの上でケータイを弄るシン。この二人の前回までの親密さの訳は判ったが・・・この二人の関係に目を輝かせる腐女子は多いことだろうな。
車を走らせるアスラン。海に面した道路を進んでいる。デカイ車でしかもかなりのスピード。まあ、コーディネーターだし、前作でも車を運転していたのだからこれも良いか。でもまだアスランは18歳だぞ。
海岸にキラ、ラクスの姿を認め、車を止める。駆け寄ってくる子供達もアスラン、そしてアレックスという偽名は知っているようだ。
この二人、前作の後日談を描いたDVD特典で、結構頻繁に会っていることが描かれているという(俺は未見)。カミーユのように壊れてしまったかと思ったキラだが、特にそんな様子もなく、アスラン自身、カガリに乗り換えたせいか、元婚約者のラクスがキラと親密にしていても、さほどの心の揺れはないように見える。
ここのラクスに注目。ラクスの胸はどうみてもオープニングで歌っているラクスと同一人物には思えないほど小さい。エンディングでラクスが二人いることといい、前話でデュランダルの側にいた謎の女性といい、やはりラクスは二人存在すると考えたほうがいいのか。とするとやはりクローンなのか。どちらがクローンなのだろうか。何の為のクローンなのだろうか。ラクスを失った時の為の用意か? しかし、このクローンという技術、実際に劇中で簡単に出来ることにしてしまうと、一気に物語が破綻し兼ねない大変危険な設定でもある。だから大抵はクローンは小規模で出来るか、世界観の一部になっているほど出来るかのどちらかに偏るのが普通だ。この作品ではどうなのだろうか。クローンを容易に扱っていると、キャラの死が軽くなり色々な破壊因子が作品を食い荒らすことになるが。
子供に慕われるアスランは個人的にはちょっと意外な光景だ。
キラを乗せて走るアスランの車。後ろで2つのウイングが立ち上がっているが、これは下向きの揚力(ダウン・フォース)を発生させて車を地面に押しつけ、地面とのグリップ力を増して安定させる役目を持っている。スポーツカー等によくあるリア・ウイングだ。それだけスピードが出ているということだろう。細かな演出である。実際のところ、走っている車を描く時にスピード感を出すのは結構難しい。増してや高速で走っている車の上で会話をする時は、強引に背景を延々と流し続けるとかしなければ会話がつながらない。会話が長過ぎると背景が全く変わらず、逆にスピード感を殺してしまう。また、背景は距離によって流れ方が違うのは下手にカットを入れてしまうと如何にもスピードが出てないような錯覚も起こしてしまう。この道路、2車線しかないが、アスランの車はライン一杯にまで広がっている。大きな車だ。
ユニウス・セブン落下阻止の時のことを語るアスラン。「何とどう戦うのか、答えはまだ見つからない」というアスランの肩に手を添えるキラ。キラはやや子供っぽい反応をしているが、二人の深い関係が見てとれるシーンだ。
二人が着いた家にはマルキオ導師がいるが、キラ達は高波で家を流されてここに来ているはずなので、恐らくアスランかカガリの私家なのだろう。
夜、まだ修理が続くミネルバ。その中で眠るシンとレイ。こうして二人の姿を見ると妙な違和感を感じる。特にレイは、今まで生活感がまるで無かったので、ちょっと不思議な感じだ。寝る時も実直な感じである。
朝、恐らく元首公邸だろう。起きてきたカガリがノートPCをいじっていたアスランに話しかけている。閣議でカガリの思惑から外れていっているのが本人の口から語られる。今回のカガリは妙にはっきりとちゃんとした意志を口にしているが、それがアスランと二人きり(正確にはメイド達が後ろにいるが)だからこそ言えるセリフなのだろうか。カガリの扱いは余りよろしくないので、頑張ってもらいたいところだ。
私服を着て上陸するメイリンにヨウラン、ヴィーノ達。メイリンの服装は結構ハジけていると思う。最新鋭軍艦のオペレーターを14歳で任されているとはいえ(普通はあり得ないが)、普段は何処にでも居る女の子、といった感じだ。
シンの部屋を訪ねるルナマリア。その頃シンは射撃訓練場に。この施設を見る限り、やはり前話の射撃訓練のシーンは場面設定に些か疑問を感じるのは確かだ。
場面が変わってアスランとカガリ。プラントに行くというアスランに驚くカガリ。「アスラン・ザラとしてでも俺に手伝えることがあるなら」と言っているが、ちょっと理由付けが厳しい。ここでのアスランは、自分の父親の言葉をそのまま信じ込み地球にユニウス・セブンを落としてしまったことを含めて、前作でナチュラルとコーディネーターの平和を勝ち取ったかのように見えたアスランの果たすべき責任の一つだと言える。
もっとも、この先でアスランとデュランダルを会わせる必要がシナリオにどんな展開を与えるのか、それは次回以降を待たなければならない。
見つめ合うアスランとカガリ。
その頃、シンは射撃訓練をしている。的の出方はアスランがやってみせたものと同じようだ。入って来たレイは横で銃を用意する。「上陸しなかったのか?」の時にシンは顔を背けるが・・・。
ヘリが到着する。それに乗り込もうとするアスランは、カガリの左手の薬指に指輪を入れる。「ユウナ・ロマとのことは判ってはいるけど、やっぱり面白くない」と言っているが、指輪を渡すという行為がここでどれほどの意味を持つのか、アスランに判らない筈は無いだろう。表には出さなくとも、アスランの強い意志の現れだと思いたい。テレる二人の姿は微笑ましい限りだが、前作から2年を経ていることを考えると、この二人の位置関係はやや奇妙に感じるのも確かだ。当時は16歳だった若さ故に不器用な関係が続いていたということか。しかしやっぱりユウナ・ロマの存在というのは蛇足でしかないように感じてしまう。
抱き合いキスする二人の姿はこれから始まる女性関係の伏線にしか見えない。
アスランを見送るカガリ。
シンは慰霊碑の前にやってくる。ここはシンの家族が死んだ場所なのだろうか。そこで出会い言葉を交わす、かつての主人公、キラ・ヤマト。
波を被ったので花が枯れるというキラに、誤魔化せないということかも、と答えるシン。ここでの二人の出会いは僅かに数語会話しただけで終わっている。オープニングにあるシンとキラが戦うカットが単なるイメージ画ではなく実際に劇中で起こるとしたら、どのような展開からだろうか。俺が予測した展開は物の見事に外れてしまったが、キラの様子といいシンの態度といい二人が闘わなければならない理由は今の時点では見出せない。
発進するシャトル。その頃カガリは大西洋連邦がプラントに対し、敵勢国家と見なして武力による排除も辞さないという声明を発したことを聞かされる。
去っていくシンとそれを見つめるキラ、ラクス。
もしシンとキラが戦う理由が妹の死意外にあるとするならば、やはりラクス絡みということになるのだろうか。特にもう一人のラクスが何らかの影響を持っているように感じるのだが。
予告
次回は戦いの予感。大規模なMS戦が展開されているような感じがある。オレンジ色のザクの姿もあるが、やはり一番気になるのは地球側の新MSウィンダムだろう。バックパックを変更することでストライクガンダムのような能力を得ることになっているようだ。画面を見る限り、何かの装備はしていた模様。
ゲイツRが頑張るのか? ちょっと無理だろう。ザクならともかく。
それにしてもザフト側に描かれているのはひょっとすると巨大戦艦か? ミネルバの影でそんなものまで作っているとなると、そりゃ不穏だと言われても仕方がない。まあ、俺にとっては予想通りであるが。
次回「PHASE-09 驕れる牙」
総評
戦闘は一切なく、次回以降の地球側とプラント側の新たな戦端が開かれようとする、開戦前夜といった感じの静かな話だった。オーブでさえ戦争の中に進んでいこうとする中、カガリとアスラン、キラとシン等、重要なキャラ達の出会いや心情が結構丁寧に描かれている。
ただキャラが多過ぎて全員を描ききれてはいない。ルナマリアのセリフなんて一言だけでかなり無理矢理だった。カガリのヘタレっぷりも未だに健在。何か言われる度に驚いてばかり。もっと良い扱いをして欲しいところなんだが。
シンは相変わらず少ないシーンしか描かれていないか、セリフもやたら少ない割に心情はよく描けていたと思う。特にラストのキラに対するセリフはなかなか決まっていた。
閑話休題と言った感じの話ではあるが、次に続く内容が多く、また必要なキャラがそれなりに描かれている。こういう話でどのキャラにスポットを当てるかによって、スタッフが動かそうとしているキャラが誰かを見ることが出来るが、メインとなったのはアスランとカガリ。やはり、と言った感じだ。
MS戦が無くとも人間関係を描くことで充分に見るに耐える話が出来る、という好見本だ。もっともガンダムSEEDに於いて、という意味で、今はまだバンクも少なく、それなりに効果的に動いている。
しかし、これほどバンクが恐れられている番組も珍しいんじゃないか? ちょっとバンクが入る度に「ついにやってきたか」「とうとう始まるのか」と囁かれるのはSEEDぐらいのものだろう。
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