PHASE-10 父の呪縛


脚本 野村祐一、両澤千晶、演出 鳥羽聡、絵コンテ 福田己津央

ストーリー
 戦いの一つは終わった。一方的な地球連合の開戦によってプラント内には戦いへの気運が高まる。
 その頃、プラントの最高評議会議長、デュランダルと面会したアスランは、いたずらに戦いを拡大させた元凶が自分の父にあることを苦悩する。
 デュランダルは、アスランには関係のないことだから気にするなと諭す。そしてアスランを新MS、セイバーへと案内し、それを託す考えがあることを話す。
 ホテルに帰ったアスランは、そこで待っていたラクス=ミーアと出会う。ラクスに憧れ、今の時代に必要だからとデュランダルに招かれたと言うミーアに、アスランは・・・。

アバンタイトル
 前話のダイジェスト。地球側の宣戦布告を聞くミネルバ。開戦に驚くシン。
 開かれる戦端。イザークも出撃する。
 夜、ベランダにいるキラ、ラクス。これは新カットだ。
 極軌道から迫る核ミサイル装備のウィンダム。それをザフト軍のスタンピーダが壊滅させる。
 その光が空で閃く。キラの中にクルーゼが過る。
 一方アスランは赴いたプラントでラクスに出会う。


Aパート
 オーブで放送される戦闘の様子。それを見守るカガリ、オーブ首脳、そしてミネルバのクルー達。
 アスランはデュランダルから核攻撃を報を聞く。信じられないアスランにデュランダルはニュースを見せる。
 映し出されるプラントのコーディネーター市民。様子からするとコーディネーターは普通の人間と変わらない生活を送っているようだ。当たり前と言えば当たり前だが。
 見た目は妙に落ち着いているものの、ショックだと話すデュランダル。カガリ、シンはそれぞれ怒りを露にしている。
 開戦の報に、プラントの一般市民も動揺する。
 「この状況で開戦すること自体、常軌を逸している」というデュランダルの言葉だが、“この状況”が何を指しているのか少し判りにくい。地球連合側は、ユニウス・セブン落下がプラント側のせいであるという大義名分を抱えているし、開戦に必要な戦力は充分過ぎるほど(それこそ前作のヤキン・ドゥーエ攻防戦並みに)整っているようにも見えた。“この状況”というのが“それぞれの国がユニウス・セブン落下の被害から(或いは先の大戦から)復興もままならない状況”での開戦なのだろうが、もう少しそれに言及して欲しかった。もっともこれは作り手の考え方の問題であるが。
 撤退した地球軍。破壊されたダガーLやウィンダム。やや混乱した感がある。
 一方ゴンドワナの中でもMSの整備が続いている。こちらでも軍は状況が混乱しているように見える。
 続くデュランダルの言葉にアスランは奥歯を噛みしめている。
 プラント市民。突然の核攻撃を聞かされ動揺している。デュランダルの言葉と重なるように、交互にプラント市民の様子が描かれている。戦争の声が市民の間に広がっていく。
 核を撃たれてプラントは今後どうするのか? というアスランの問いにデュランダルは判ってはいるが状況を隠せない今はどうにもならないと言う。その間に前作のバンク等や市民の間にマス・ヒステリー的に戦争の声が高まっていく様子が描かれている。状況説明が判り易い演出だ。
 既に核を撃たれてしまった状況でどうやって止めるのか? と聞くデュランダル。アスランは言葉もない。
 それでも怒りと憎しみだけの戦争は駄目だというアスラン。前作でキラと戦うアスラン、のカットがフラッシュ・バックとして入る。アスランはナチュラルとコーディネーターの戦争に、親友同士なのに闘わざるを得なかったキラとの関係を重ねているものと思われる。
 「アレックス君」というデュランダルに「俺はアスラン・ザラです」と告白する。ここでのアスランの反応は“パトリック・ザラの息子として生きることから逃れる為”ともとれる。オーブ亡命の際、マリュー・ラミアス等も名前を変えていたことから、それらが条件であることは間違いないのだろうが、それでもアスランには前大戦の被害を無為に大きくさせてしまった父親の息子に責任感を感じているのだろう。これが今回のサブタイトルの『父の呪縛』(つまり今回の話のテーマ)であり、アスランのSEED DESTINYのテーマ、延いてはDESTINYという物語そのもののテーマのひとつでもある。
 アスランの告白に笑みを浮かべるデュランダル。この二人の関係はやはり不思議だ。一体デュランダルは前作の時間軸ではどのようなポジションにいたのだろうか。ルナマリアが「アスランは有名だ」と言っていたことから、少なくともデュランダル自身もアスランについてそれ以上の情報を持っているはずだが、2年で最高評議会議長になるような傑物の存在をずっとプラントでいた筈のアスランが知らないというのは解せない話である。
 ここで前作のカットが入るが、トールがスカイグラスパーで死ぬシーンは新作カットか? 或いは特別版からのバンクなのかも知れないが。
 未だに父親のことを引きずるアスラン。それにデュランダルは、父親とは関係ないし、パトリックも元々そういう人物だったわけではないことをアスランに諭す。声を強めて「アスラン」と呼び捨てにするデュランダルの様は兄か父親のようだ。
 言葉の一人歩きや各々のとらえ方の違いを語り、今のアスランが実際にはユニウス・セブンのテロリストと同じようにパトリックの言葉に乗せられているだけで、アスラン自身は負い目を感じることはない、デュランダルの言葉は至極最もである。こうやって言ってくれる人間がどれだけいるかは判らないが。
 デュランダルとアスランの話が続く一方で、ラクス(ミーア)が表舞台に立つ。プラント市民のデモが盛り上がる最中、街頭でラクス・クラインの映像が流れる。驚くアスラン。


Bパート
 プラント中に流れるラクスの映像。それを不思議がる市民達。現状でラクスがどのような状況にあるかを市民がどれだけ知っているのか判らないが、前作のヤキン・ドゥーエ攻防戦ではラクスは戦争の愚かさを世界中に語っていた。その後の消息について恐らくプラントや地球では何も知らされていないものと思われる。市民達の反応は、今まで姿を消していたラクスが突然現れたことへの反応だろう。ラクスはオーブへと亡命したのであろうが、プラント側ではラクスというアイドル(偶像)はまだまだ失ってはならないものだったのである。
 驚くアスランに笑みを浮かべるデュランダル。
 ここでのラクスは前作以上に芝居がかっているように見える。その理由は・・・。
 デュランダルは多くを説明しない。もちろんここは説明などしなくても判る場面だ。ラクスの正体そのものについては語られてはいない。
 影武者というのは確かに正々堂々としたやり方でないような感じもするが、状況を沈める為の手段としては現在でも様々な方法で取られている(もちろん表立っては言わないが)。デュランダルが小賢しいと称したのは、あくまでアスランに前に語ったことに対して使う方法としては、という意味だろう。
 実際、ラクスの訴えと歌でプラント市民達は自重する。
 ラクスと同様にアスランの力も必要だというデュランダル。デュランダルに連れられて向かった先にあったのは、ZGMF−X23Sセイバー。それをアスランに託すと言うデュランダル。
 軍に戻れということか? と聞くアスランに対し、言葉通りだと答えるデュランダル。
 このシーン、キラがラクスからフリーダムを受け取る場面と似ている。
 もう忘れられているカオス、ガイア、アビスとの第1話の戦闘を思い出すアスラン。セイバー登場のシーンはまるで2クール目で主役メカ交代劇が起こったかのような雰囲気がある。まさにこのDESTINYの主役はアスランで、やはりアスランが乗るセイバーのほうが主役機だ、と言わんばかりだ。
 ホテルだろうか、アスランを迎えるラクス。驚くアスランにミーア・キャンベルだと自己紹介する。強引にアスランを引っ張って食事に向かうミーア。
 食事の最中、自分のことを話すミーア。キャピキャピしたミーハー感丸出しのミーアの姿が面白い。感心したのが、ここでミーアを下手な理由をこじつけないで、本当の“影武者”にしてしまっていることだ。SEEDではクローンという便利な設定があるためどうとでもなるような部分だが、こういった一見チープな設定は逆にリアリティが増している。無理矢理謎にしてしまうよりも遥かに先を期待してしまう展開だ。これからこのミーアがどうアスランと関わっていくのか、本物のラクスとの対面はあるのか、他のアスランを取り巻くキャラとはどうなるのか、楽しみにしたい。個人的にはアーバン・ライトマン監督、ケビン・クライン主演の映画『デーブ』を思い出してしまった。
 正当な言動と、していることのギャップが見え隠れするデュランダル。アスランは不快な表情だ。
 必要なのはラクスであると指摘されて、ミーアは自分は必要ないが今だけでもラクスとしての自分が必要だと言う。ここのミーアは健気さと無邪気さの両方が見てとれる。これが天然なのか、それとも巧妙に作り込んでいるのかは今後の展開を見なければ判らない。一見ヒロイン然としたキャラが突然キレた行動をするのはSEEDではよくあることだ。前作で放映前にフレイをヒロインだと触れながら、実際には強烈なキャラに仕上げた前例があるから何ともいえないところである。SEEDのヒロインは不幸を背負ってキレるキャラが多いのは、シリーズ構成の両澤千晶の手によるものだろうと思われる。腐女子である両澤にとっては女性キャラには視聴者寄せでしかなく、逆に女性キャラ達を壊していくことによって、本来描きたいアスラン等の男性キャラの性格を引き立たせている、と見えるのはかなり穿っているだろうか。
 アスランの頭に様々なことが過る。ラストシーンは、今まで名前を偽り、戦いから背を向けて生きてきたアスラン・ザラが、アレックスではなく本当のアスラン・ザラとして生きる決意をしたことの象徴だろう。もちろんその要因の一端は、アスランと反対に自分を偽って表舞台へと立ったミーアにあることは間違いない。この二人の関係は要注目である。

予告
 新たな戦いの兆しが見える。ミネルバ、そして地球降下を行うの、搭載されるシグーの姿もある。久々に登場のネオや強奪ガンダムの三人組を始め、カガリにユウナ、ウナト。シンの姿が見えないのがちょっと不安ではある。
 カガリとユウナの関係を見ると、どうやら人間模様が中心の話になりそうである。大きな軍の展開はあるだろうが、戦闘シーンそのものがあるかどうかは判らない。
 今回でのアスランの思いが次回でどのように現れるかには期待。

 次回「PHASE-11 選びし道」


総評
 戦闘もなく、シンや他のキャラクターの描写もほとんどなく、ただひたすらアスランとデュランダルの会話のみで進む話。
 影の主役であるアスランの悩みには共感出来るので、それなりに見えるものになっているが、密度は極めて薄い。戦闘後、盛り上がって来るプラント側の市民の状況を背景に、ただアスランが悩みをぶつけ、それをデュランダルが受け、尚且つアスランを先導してMSに乗せている。話の大半はこれで終わっている。
 地球側がどのような状況かが判らないので、あくまでアスランのみの視点となっているが、それ故場面が狭苦しく感じられた。背景のモニターで流れる映像も、他の話の合間で作られた回のような密度の薄さが感じられるが、まだバンクに逃げていないだけマシというものだろうか。
 最後はミーアの登場。これからキー・キャラになりそうなミーアだけに、短いながらもキャラを把握するにはそれなりに充分だった。
 全編で悩んでいるアスランの姿が切迫感を感じさせるが、前回が状況説明だったのに対して、今回は単純に閑話休題(インターミッション)のような薄さが気になった。
 もっともアスランがアレックスという名を捨て、アスラン・ザラとしてこれからの世界に関わっていこうとすることを決意するというのは重要なことである。その為にわざわざ取った1話分、ということになるだろうか。




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