ファースト・ガンダム 幻の4クール・ストーリー

用語解説


当初は4クール(52話)で製作される予定だった
 この頃のTVアニメーションシリーズは4クールで製作されることが多かったが、最初に2クール(半年)分の契約が交わされ、放映開始後に追加契約が結ばれるという形態は、現在の4クール作品と変わりはない。「ガンダム」の放映本数が減ることになったのは、この追加契約の後であったと思われる。


第22話より第25話&第26話より第30話
 すでにこのプロットを書く前に大筋は決定していたようで、基本的に富野監督自身が考えをまとめるための、粗筋的な内容になっていて、相違が見られるのはミハルとスレッガーの名前程度である(放映時はミハル・ラトキエとスレッガー・ロウ)。なお当時、富野監督は「地球連邦本部に名前をつけるということに、しばらく思い至らなかった」と語っていたが、まだこのメモの中にもジャブローという名称は登場していない。


第32話
トクワンのドム部隊
 ビグロのパイロットとして、前話にして死亡。代わりにデミトリーの乗るザクレロと、かつてシャアの副官ドレンが指揮するキャメル艦隊が登場することになった。


第33話
ドザム
 本編未登場。文章から察すると重装甲・重武装の機体ではないかと思われる。ただMAではなく、あえて“モビルスーツ”と記述してある点が興味深い。


第34話
酸素欠乏症による障害

 本編よりもテム・レイの障害は低いようである。
アステロイド・ララァ
 本編では用いられなかったララァの愛称。彼女が攻撃するときにサイコミュを通して発する「ラ・ラ……」という頭に直接響く音は、この辺りからもイメージされているのかも知れない。


第35話
シャアは、衝動をおさえるのに必死であった
ララアの髪の毛が総毛立つ
 前話のラスト部分とは、ふたりの反応が異なっている。映像では前話のイメージで描かれている。


第36話
ガンダムタイプの陸戦隊=レンジャー
 GMの要塞攻略タイプのようなものではないかと思われるが、結局明確に一目でわかるGMのバリエーション・タイプが映像に登場することはなかった。


第37話
バロム
 前話にも名前が出ているハムロ少佐のこと。本編でもバロムの名で登場したが、ドズルの妻子救出を進言した後には登場していない。シリーズ短縮のために削除されたものと想像される。
ハクジ
 ギャンの元の名称。マ・クベがコレクションしていた白磁の壷から用いられたように思われる。
ドワッジ
 リック・ドムの原名。後の「機動戦士ガンダムZZ」に登場するドムの最終量産型とされるMSにこの名称が用いられている。


第38話
ララァの脳力
 富野監督がニュータイプという名称を発案したのは、放映開始からある程度経てから(第9話のマチルダのセリフの中で「あなたはエスパーかも」という言い回しがされているのは、そのためだと語られている)だが、企画書には「エスパーの導入による考察−ラストメッセージに至るドラマとして、レギュラーの中にエスパーの導入もあり得る」(78年11月3日)とはっきり示されている。
カスバル・ベイリー
 本編には登場せず。他の部分に、アムロの部下となるとの記述があるため、もしも描かれていれば後半部分のアムロの成長に大きく関係したのではないかと思われる。
ギャン
 ゲルググの原名。
シャアの罠とガンダムの攻勢
 映像ではこのような仕掛けは用いられず、ララァとの感応によってニュータイプとして開花し始めたアムロによって倒された。


第39話
ジン・ライム曹長
 本編には登場していない。
ソフィア
 フラナガン博士のことを示している。フラナガン・ブーンという人物も登場しており、それとの重複を避けようとしていたのかもしれないが、詳細は不明。しかし当時、富野監督は、このソフィアという名前にもかなり固執していたようである。
シャアとセイラの会話
 本編とは微妙に、シャアの発言のニュアンスが異なっている。以下に本編のものを掲載するので、その相違を読み取って欲しい(一部省略)
  シ 「軍を抜けろと言ったはずだ!それが軍曹とはな…」
  セ 「兄さんこそ、ジオン軍にまで入ってザビ家に復讐しようなんて、やることが筋違いじゃなくて」
  シ 「お前の兄がその程度の男だと思っているのか?アルテイシア」
  シ 「ジンバ・ラルが教えてくれたことは、本当のことかも知れん。あの爺やの口癖だったろう…」
−−−ジンバ・ラルの言葉
  シ 「ジオンに入国したのも、ザビ家に近付きたかったからだ。しかしなあ、アルテイシア。私だって、それから少しは大人になった。ザビ家を連邦だ倒すだけでは、人類の真の平和は得られないと悟ったのだ」
  セ 「なぜ…?」
  シ 「ニュータイプの発生だ」
  セ 「アムロがニュータイプだから?」
  シ 「うむ…。そのニュータイプを敵にするのは面白くない。今後は手段を選べぬ、ということだ」
  セ 「ジンバ・ラルは、ニュータイプは人類全体が変わるべき、理想のタイプだと教えてくれたわ。だったら…。キャスバル兄さん、何を考えているの?」
  シ 「もう、手段を選べぬと言った。お前は地球に行って、一生を全うしろ。私はもう、お前の知っている兄さんではない!」
  セ 「に、兄さん…!」
  シ 「マスクをしている理由がわかるか…私は、過去を捨てたのだよ!!」
ハヤトは怪我をして、フラウが大騒ぎする
 エピソードの統廃合により、第35話の「ソロモン攻略戦」に組み込まれている。


第40話
ゲルググ
 ブラウ・ブロの最初の名称。サイコミュ(サイコ・コミュニケーターの略称)という名前も登場していないなが、その基本的な位置付けは完了している。
大人ね、何が変わったの?
 実際に放映された本編でも、若干の似た様な会話がアムロとセイラの間で交わされているが、シリーズが短縮されたことによる人間関係描写での最も大きな変更がこのふたりの間柄のようにも思える。小説版でのふたりの親密な関係は、それを補う意味もあったのかも知れない。
ワッケインの死
 このエピソードもシリーズ短縮のために他の話数(第38話)に組み込まれている。
それらの意志を消すという戦術
 ニュータイプが持つ先読みの能力を逆手に取った戦法だが、後のガンダムシリーズでも、明確にこの手法を用いるに至った者は見受けられない。本編でも、純粋にアムロの能力がシャリア・ブルのそれを上回った、という形で決着している。


第41話
キシリアの月基地“グラナダ”へ降り立つ
 グラナダ攻略のエピソードは、完全に抹消されている。
新しい、進歩が連邦から生まれる
 放映時には、最後までギレンはニュータイプに対して懐疑的であり、キシリアがギレンを討つためにニュータイプを集める、という図式に変更されている。
新型戦艦“グワジン”
 従来のジオンの戦艦が用いられており、新型艦は登場しなかった。
ハムスキー提督、勇将ダル
 登場せず。
“ガッシャ”の“山越えハンマー”
 同じく登場せず。障害物の陰から敵を撃破することを目指して作られたMS。


第42話
キケロガ
 未登場機。MSかMAかははっきりしていないが、オールレンジ攻撃か、それに類する戦い方が可能な機体としてイメージされていたとの説もある。
父は、生きているのですか?
 この時までテム・レイは、研究を続けていたことになっている。また彼の死についても、はっきりと明言されているのが興味深い。


第43話
ドク
 ビットの原名。
アッザム改
 本編には登場せず。第18話に地上で登場したアッザムそのものが、宇宙トーチカを改造したもののようにも思えることから、登場してしかるべき機体と言えよう。
ガルバルディ
 未登場MS。後にMSVでギャンとゲルググを発展させた機体に、この名称が用いられている。「機動戦士Zガンダム」に登場するガルバルディβは、さらにそれに手を入れたものである。
シャアは、キシリアを刺した
 シリーズの短縮にあたって、富野監督はここに紹介したプロットから要旨を集める形で再構成にあたり、このエピソードを、シャアのラストエピソードとして選択した。


第44話
新造戦艦“アメリゴ”
 登場していない。
エルメス本体を月の地中基地に見出した
 月の地中を指す。予定では、ララァとアムロの戦いは、地中基地の中で繰り広げられる予定であった。
セイラは、重傷を負い
 彼女の負傷については、すべて削除されている。


第45話
パッカデリア
 シャリア・ブルの部下に関する部分は、すべて描かれることはなかった。しかし富野監督は、彼らが登場しなかったことにより逆にドラマが集約され、結果的には良かったのではないかと述懐している。
“神の声なのか?”
 アムロとララァの感応シーンについて、富野監督は記録全集第2巻に寄せた「演出ノォト」の中で、以下のように述べている。これは当時の監督が抱いていた、ニュータイプの定義と言ってもよいであろう。
「人同士の思惟が直結する手段が発見されれば、人と人のコミュニケーション(意志の伝達)の中に誤解の発生することがない。さらに誤解が生じなければ、その通じ合った意志とか考え方が重なり合って、相乗効果が増幅されるのではないか?と、考えたと言う事だ。
  意志の相乗効果!これは、すごいと思う。
  オールドタイプの個人の考え方の、二倍も十倍も想像力とか洞察力が拡大するんじゃないか、と想像したんだ。
  それが、アムロとララァの会話だ」
 増幅された思惟、それは神の声にも等しく感じるに違いあるまい。
敵の少年とざれ会うララァを!
 ここではパッカデリアが口にしているが、本編ではこの意味の言葉をシャアが口にしている。その結果として、より一層アムロとシャア、ララァの関係が明確になり、これを含めて前述のシャリア・ブルの部下を登場させなくて良かった、という発言が富野監督から発せられたと思われる。
パッカデリアのガリアブ
本編未登場、詳細不明。しかし文章から、ビットのような遠隔攻撃兵器ではないかと推察される。


第46話
シャアは帰国し、初めてギレンと会う
 両者が会話するシーンは、ついに映像上では描かれることはなかった。けれども、このときの雰囲気の一部が第41話「光る宇宙」における、シャアとキシリアの会話に生きている。
“デギン”が接触した
 デギン・ザビの専用艦、本編登場時にはグレートデギンと改名されている。
クスコ・アル
 本編未登場。しかし小説版において、ララァに匹敵するニュータイプの素養を持つ少女に、この名前がつけられている。
タブロー、キケロガ
 未登場。
デギンはセイラと語り合う
 カットされたシーンではあるが、シャアとセイラを語る上においては、非常に興味深いエピソードと言える。


第47話
38バンチ
 本編では、サイド3の第3バンチがソーラレイに改造された。
新鋭モビルスーツ“ガラバ”
 未登場。


第48話
ジュピター船団
 ガンダム世界のエネルギー源は、そのかなりのパーセンテージを木星から輸送しているヘリウム3に依存している。そのため後の作品でも、何度か同様のものが登場している。ちなみに南極条約により、この船団を攻撃してはならないという設定が後に作られたが、このプロットを記したときには、そのような発想はなかったのであろう。なお、木星の採取基地がどのような形態で運営されているのかは不明。「機動戦士Vガンダム」のときには陰で糸をひいて、地上の人類を抹殺しようと企んでいる。
ゴラ
 パッカデリア同様、登場することのなかったニュータイプ。
仇討ちにこだわり
 第38話のセイラとの会話が示すように、本編における再登場後のシャアは、明確にザビ家への復讐心を失っている。
ダルダン
 登場せず。


第49話
見えるわけがないのに!

 本来、ソーラレイが発するレーザービーム自体は見ることができない。小説中でも、そのように描写されている。しかしアニメにおいては映像的な効果が優先され、宇宙を貫く憎しみの光として描かれた。


第50話
シャアもニュータイプだと言える
 ララァのような形でのシャアのニュータイプ能力の発露は、考えていなかったと思われる。
ソーラレイの第二弾
 本編においては技術的な問題から1発しか撃てないことになっている。これはストーリーを短縮せねばならなかったためだけではなく、切り札は1回のみの方が緊迫感を煽ると判断したためであろう。
シャアは、すでに、死者に等しいと!
 本編においても、ララァの死後のシャアは死者に等しいと言える。再び生を得るための行動が、キシリアの抹殺だったのかも知れない。だが「Zガンダム」の迷えるシャアは、それだけでは彼が魂を取り戻せなかったことを示しているとも解釈できる。が、それはまた別の物語である。


第51話
あなたを討つのは、彼ですから
 映像ではシャアがアムロに対して「私の同士になれ!」と語っているが、ここではシャアの側からアムロに近付く発言をしている。
敵は、一人だ、ギレンだけなんだ!
 思惟の流れを読むことができる、ニュータイプならではの言葉。それは映像においても、第36話の悪意を放出するドズルや、最終話のアムロの「いまの僕になら、本当の敵を倒せるかも知れないはずだ」というセリフにもあらわれている。


第52話
ギガン
 登場せず。
ジオン共和国
 すでにこの時点で、ジオン公国は共和制に移行して終戦を迎えることになっている。
人は、“種”の変改期を迎えつつあるのだ。
 ニュータイプへの脱皮を示しているが、富野監督のメモの中には、すでに放映開始前の78年10月30日付けで以下のようなものが残されている。これは言葉としては語られていないし、またその必要もないものだが、あのラストシーンに含まれている意味を、明確に示したものである。

「ラスト・メッセージ(シャリア・ブルの手紙)
 人類は未開だ。何もしないでは、いられない。無の心で、宇宙を、世界を見守るほどに、豊かではない。
 人類はには、今だ、戦いという遊技が必要なのだ。
 知も理も、その混沌から生まれる。人類は、今、知と理そのものの、鍛えの時代なのだ。
 我々は前人類といえよう。が、今や、我々の精神は拡散しきっている。紀元前にあったように、人類に教え伝える事はできぬ。
 伝習の時代は、終わった。
 もはや、人類は、己の力で、高めねばならない。
 太陽の輝きが、銀河系を飲み込むまでに、成長せねばならぬ。宇宙は、新たな精神のモチーフを持っている。
 もはや、時はない。あと300億年もない…」

参考、出典
機動戦士ガンダム メモリアルボックスPart-1、2 ブックレット
著作権表示
創通エージェンシー・サンライズ

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